
玄関で「今日の服装にはどの靴かな」と迷うことがある。結局、手に取ってしまうのが、GYM CLASSICという白のキャンバスシューズだ。
もう何年も履いている。それでも、ボロになったという感じはしない。どちらかといえば、風合いが育ってきたという印象に近い。
僕が思うに、ヴァルカナイズ製法の靴の魅力はここにある。新品のときがピークではなく、履くほどに自分のものになっていく。
ヴァルカナイズ製法とは
ヴァルカナイズ製法は「加硫製法」とも呼ばれる。組み立てた靴を加硫缶という大きな窯に入れ、一定時間、熱と圧力を加える。すると、生ゴムに練り込まれた硫黄が熱によって化学反応を起こし、ゴム本来のしなやかで丈夫な状態に変わる。
実は手仕事の工程が多く、熟練の技術が必要になるため、国内でもこの製法で靴をつくれる工場はごく僅か。ムーンスターは福岡県久留米市の自社工場で、この製法で粛々と靴を作り続けている。
一般的なスニーカーとの違い
多くのスニーカーは、アッパーとソールを接着剤で貼り付けている。
ヴァルカナイズ製法では、ソールとアッパーの接着に、接着剤という別の素材を使わない。ゴムを液状にしたものを接着剤として使い、窯に入れて熱を加えることアッパーの織り目に入り込んだ液状のゴムがアッパーとソールを接着させるのだ。陶器に取っ手をつけるときを思い浮かべるとわかりやすい。材料の土を水で溶いて液状にし、それを接着剤の代わりにして、本体と取っ手をつなぐ。同じ素材どうしだから、つなぎ目が異物にならない。
そのおかげで、靴が曲がるときに嫌な抵抗がない。要は、裸足で歩いているような感覚に近い。
長く履ける理由
アッパー材の裏側には、薄くゴムがコーティングされている。生地に強度とハリを持たせるためだ。このゴムコーティングは熱を加えると少し発泡する配合になっていて、通気も確保できている。
また、この薄いゴムコーティングが、何年経っても靴の形を支えてくれる。型崩れすることなく、単体で置いたときにも、凛とした佇まいのままだ。
冒頭で書いた「ボロではなく、風合いが育つ」という感覚は、たぶんここから来ている。生地の表情は変わっていくのに、形は崩れない。だから、古びるのではなく、育つように見えるのだ。
手入れについて
手入れは単純。しっかりとした強度があるので、汚れたと思ったら、中性洗剤とブラシでゴシゴシ洗えばいい。
むしろ気をつけたいのは、洗わないことのほうだ。定期的に洗わずにいると、靴の中で菌が繁殖して生地そのものが弱くなり、破れにつながる。大事にしまっておくより、汚れたら洗って、また履く。そのほうが靴は長持ちする。
魅力について改めて考えてみる
裏側をゴムでコーティングした特殊なキャンバスだから、表面はエイジングしていても、ハリはしっかり保たれている。だから風合いが育ちやすく、足にも馴染んでくる。履くたびに愛着が増していくのは、そのせいだ。自然な動きを邪魔しないしなやかなソールのおかげで足への余計な負荷がかからないところも魅力的だ。
でも実のところ、僕にとっての一番の魅力は別にある。作っている工程を、この目で見てしまったことだ。職人たちが一足にどれだけの手間をかけているのかを、知ってしまった。
それは見ることができた者の特権なのか、はたまた呪縛なのか……いずれにしても、僕はこれからもヴァルカナイズの靴を履き続けるだろう。
オススメの靴は“GYM CLASSIC“
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